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絡み合う視線に一瞬だけだが、奴の手元が緩んだ。
それを見計らうように、俺は低い声を出した。
「交渉したい」
交渉なんてへりくだった言い方は癪だが、下手に刺激して最悪の事態になるのは避けたい。
それが通じたのか彦斎は、俺の方に怒っているようで寂しそうな面を向けた。
「うちの組の者一名と闘って欲しい。
もしお前がそいつを倒せたら、ヒマリを煮るなり焼くなり好きにしろ。
それにもし倒せたら、新撰組はお前の後は今後一切追わない。
また、関わらない。
どのみち、お前に逃げ場所はないんだ。
悪い条件じゃないだろ?」
もし彦斎がヒマリを殺せば、奴に待っているのは斬首なんて生易しいものではない。
逃げ場がないって脅しも本当だ。
それに、彦斎を追わないと言うことは、彦斎の大切な人間にも関わらないことを含む。
悪い条件じゃないだろ。
ただし、相手が相手だがな。
「総司!」
俺は名を呼びながら内側の鍵と戸を開ける。
抜刀したまま、未だかつてない程の殺気を纏っている総司が、ゆらりと姿を現した。
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