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「屯所内で公開処刑とは、土方さんも悪趣味ですね」
いつもなら余計な事を笑いながら言う総司だが、殺気を纏うその姿は誰が見たって背筋が凍る。
刃こぼれしていない、美しい刀身を、いかにも自然な行為のようにスッと彦斎に向けられた。
「悪趣味なのはお前のその偽物の笑った面だろうが」
ガキの頃から総司を知っている俺でも、その禍々しい修羅の気配に気負いそうで、わざと反論するしかなかった。
悪いが、彦斎の死は確実だ。
ヒマリも不安そうに総司と彦斎を見ている。
死なせてはならない、だが、人質にとられた以上は従うしかないのか。
そんな葛藤が手に取るように分かる。
総司は殺る気になれば、もう終わらせているだろう。
「沖田総司…か。
いいだろう、お前も殺す予定だからな」
「予定ですか。
貴方に目的があると?」
口の端を吊り上げて笑った彦斎は、ヒマリの腕を引き寄せると首を斬るように簪を空振りしてみせた。
「お前らが考えている通りさ。
俺がここに来た理由、それは松平の娘の殺害、そして新撰組の崩壊。
それが俺の…正義さ」
彦斎の目には狂気はない。
あるのは曲がった己の信念だった。
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