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しがみついた佐久間順は、彦斎の声を聞いて顔をもたげた。
緩やかに速度を落とし、騎乗したまま隊士の間から見えた光景。
彦斎が居合いで沖田の首を狙う。
だが突きを繰り出した沖田の一度目の突きに弾かれ、沖田の二度目の突きに胸を彦斎は受けていた。
本来ならば三度目の突きも確実に繰り出しているはずだが。
粋なことに沖田はそれを突き刺す前に寸止めしている。
コノヤロウ、と彦斎の唇が動く。
それは手加減をされたことに対しての怒りだろう。
命を張った真剣勝負に、天性の刀の使い手との力の差を思い知る。
沖田は松田を傷つけられたことを根に持っていた。
さらに松田の気持ちを踏み躙る行為をした彦斎を、沖田がすんなりと許すはずがない。
この状況下でさらに相手を陥れる芸当ができるとは、やはり沖田は恐ろしい男だ。
周りの隊士は速さについていけない者が多いが、ぐらりと体が傾いた彦斎を見ればどちらに勝敗があったかは一目瞭然。
「あ…あ……」
そして、俺の背中から力無く馬から降り立った佐久間順にも、その勝敗はしっかりと見開いた眼に写されていた。
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