第一章

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   武藤はガタイのいい男だった。身長190センチ、体重85キロ。  どんなに満員の電車でも彼の周りには空間ができ、彼が並んだレジの後ろには誰も並ばない。  周囲の人間は敏感に察知する。武藤には左手の小指が不自然に無い。それは彼がある特殊な組織に属していた(或いは属しているかもしれない)事を物語っていた。  義指を付けて堅気に戻った者も沢山いるが、武藤はそれを隠していない。 「……いかん。また来てしまった」  可愛らしい外装のケーキ屋の中を覗き込みながら、武藤は一人ごちた。  製薬会社の外回りで通る道にあるケーキ屋。仕事中だというのに、彼は三十分近くショーウィンドーを眺めていた。  
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