透明、重なって白。

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冬は早朝が似合う、って言うけれど、あたしにはよく分からない。 青だかグレーだか見分けがつかない空が、まだ太陽が昇る前に起きてしまったあたしを責めているみたいで、少し悲しくなってしまう。 だからこの時間の空は見たくないの、と半ば強引に理由をつけて、あたしは道路の白線を見つめて歩いた。 足音は二つ。 隣を歩く彼は、そんなあたしに気づいているのか、いないのか、黙ってトランクを引っ張っていた。 …こんなハズじゃなかった。 つい一昨日まで、陽気に彼の上京を喜んで、見送りまで行くと自分から申し出ていたのに、 さっき、大きな荷物を抱えて、待ち合わせの場所に立っていたその人を見たら、 いつの間にかあたしより何歩も先を歩いていて、悔しくて、 仕方が無いにせよあたしは置いて行かれるんだと思うと、虚しくて、 言葉が出なかった。 本当は、昨日までずっと、別れ際に言う気の利いた台詞なんかを考えていたし、 最後は絶対に笑って見送ってやるなんて思ってたのに。 今は全部台無しだ。 歩いていると、向こうがふらついたのか、あたしがそうなったのか、手と手が触れた。 いつもなら気にもしないのに、いや、気にしても平然としていられるのに、 肩が強張って、手を引っ込めた。 そうしただけで、泣きたくなる。 「…どうしたの?」 歩き出して初めて、彼は声を出した。 分かってるくせに、あたしの気持ち分かってるくせに。 「……別に、どうもしないよ。」 分かってて敢えて問いかけてくるのも、彼なりの思いやりっていう事も知ってるけど。 しばらく、彼の視線を感じていたけど、諦めてふっと前に視線を戻してしまったのがわかった。 また、どちらからともなく体が揺れ、手が触れる。 あたしが肩を震わせて、距離をとる。 彼があたしの手を掴んだ。 少し道路の白線を見つめていた頭を上げる。彼が息を詰めたのが聞こえた。 少し荒っぽくあたしの手を掴んでいた彼の左手は、 ゆっくりと、あたしの指の一つ一つを大事そうに絡めとって、大きく包んだ。 親指で、あたしの親指の付け根を撫ぜる。 さっきとはまた違う感情で、肩が震えた。
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