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バス停で、足を止める。
ここにバスが来てしまえば、それが最後。
空が白む、きっともうすぐ日が昇るんだ。
手は、さっきから何度も握り方を変えた。
そうした方が、彼の存在をより近く感じる事ができるから。
「…あっちに着いて、落ち着いたら、メールして。」
言った後に少し考えた。『落ち着いたら』って、捉え方によっては大分先の話になってしまうんじゃないか。
そんなに待っていられない。不安になって、補足しようかどうか迷っていたら、
「住む所に着いたら、メールするよ、すぐに。」
一番欲しかった答えをくれた。
彼と目を合わせる。
目に焼き付けようと思って、じっと見つめた。
眼の奥が痛い。喉が押し付けられる。
いけない、笑うはずじゃなかったっけ。
もう、計画も何も無くなってしまうじゃないの。
困った顔をすると、彼はあたしの正面に立った。この先何をするのかは、見当がついた。
目を閉じる。やっぱり、唇が触れた。
瞼の中に入りきらなかった涙が流れた。
つないでいた手を離して、彼はあたしの涙を拭う。
後から後から、涙はつたい続ける。
彼はそれを残らず拭って、拭う度に顔の角度を変えた。
涙を拭われるのも、角度を何度も変えてキスをするのも、初めてだった。
顔が離れて、あたしも泣き止んだ。
「…会えない期間分?」
とあたしが聞くと、
「うん……でも、あと少し足りないね。」
そう言って、もう一回だけ、優しく優しく口付けた。
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