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衣替えも終わった十月初め、明日の本番に向けてクラス劇の総練習を行っている二年一組の教室の隅っこには、先日生徒用に配られたしおりをボーっと眺める歩の姿があった。
彼女は、目の前で繰り広げられているリハーサルには目も向けず、茶色の着物で全身を覆い、しおりを見つめてはニヤニヤとした笑みをこぼす。
普段使っている机や椅子を教室の前方へと詰め込み、スペースを作った後方で行われているリハーサルでは、犬と猿とキジを引き連れた桃太郎が臼と蜂と栗を引き連れたカニと対峙(タイジ)するという場面が演じられていた。
「牧之瀬さん、なんか嬉しそうだね?」
お婆さんの格好をした岡田ともが台本を手に歩の元へとやって来る。
「あ、岡田さん。出番お疲れ様!」
「ありがとー! 一応、最後の方にもちょこっとあるんだけど、とりあえず私の山場は終わりだね。」
溜め息のような息を大きく吐きながら言うが、すぐに話を戻し、
「で、何をそんなに嬉しそうにしてたの?」
笑みを崩さないままぐいぐいと尋ねて来る。
すると、そこに黒の着物を羽織った三宅志貴も合流し、
「好みの殿方のクラスの催し物でも探してた?」
同じように問い詰めて来る。
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