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序章-現在(一)-
――夜。
満月が昇る夜空の下。山道を抜けた先にある小さな休憩広場に、小綺麗な服を身に纏った若い男が立っている。
男は頻りに腕時計を眺め、靴を鳴らす。
「ったく、遅ぇな。自分で言っといて遅刻かよ……」
男はどうやら誰かと待ち合わせをしているようだ。
時刻は現在、夜の十一時。辺りには電灯が数本あるだけで、殆ど真っ暗闇である。
こんな時間にこんな場所で彼を待たせているものは、一体何なのだろうか?
その時。
辺りの暗闇に合わせるような、漆黒のマントに身を包んだ一人の少女が姿を現した。男は少女を見つけるなり、大声で怒鳴る。
「お前か!? 自分で時間指定したくせに、遅刻してんじゃねぇよ! 何十分待たせれば気が済むんだよ!」
彼と待ち合わせていたのは、先刻姿を現した少女だった。彼女は男の方を見ると、ニタリと笑う。その笑顔は、暗闇の中で不気味に光った。
少女は大体十五、六歳と言ったところだろう。長い髪を左上の高い位置に結わえ、灰色のワンピースを着ている。
「あ、ごめんなさい。どうやって貴方を殺そうか考えてたら、遅れちゃった」
少女は低く、かつ無邪気な口調で言った。
「は? 何だよそれ」
「ようこそ、死の宴へ」
「質問に答えろよ!」
質問を受け入れられず、男は声を張り上げる。
「私は死神、神楽羅維納。死期が近い貴方をあの世へ連れて行く為、今から貴方を殺します」
「死神? お前頭大丈夫か? 第一、殺すとか、一体何なんだよ……」
死神の少女――羅維納は男を冷めた目で見つめる。
「貴方馬鹿? 招待状に書いてあったでしょ。パーティーに招待するって。それがこれ」
「そ、そんなパーティーがあるか! ふざけんな! 死神だか何だか知んねぇけど、俺はまだ死んでらんねぇんだよ! じゃあな!」
男は動揺しきった様子で急いでバイクに乗り、逃げた。
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