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翌日。昨夜の出来事を思い出しながら、羅維納はため息を吐く。
「はぁ……昨夜は散々だったな」
×××××××
人間界から帰還し、部屋の扉を開けた羅維納の目に飛び込んだのは、部屋を出た時同様いやらしい笑い方をして羅維納を見ている、冬実の姿。
「冬実さん、まだ笑ってたんですか?」
半ば動揺しながら羅維納は問いかけた。
「なーにとぼけてんの。終といい雰囲気だったくせに~」
……と冬実は冷やかし始める。これが約一時間くらい続いた。よくもまあ冷やかしの題材が見つけられるものだ。羅維納は心底そう思った。
それだけならまだしも。冬実は驚くべき事を言い出したのだ。
「あんた、終の事好きだったりする?」
直後、羅維納の顔が紅潮したのは言うまでもない。
羅維納自身は一番らしい口実をつけておいた心算だが、肝心の冬実にちゃんと伝わっていたのかは、不明である。
×××××××
そんなこんなで現在。その冬実は、部屋を留守にしている。どこに行くのかは、何も聞いていない。冬実は一体どこへ行ったのだろうか?羅維納が思考を巡らせていると、小さな開閉音と共に扉が開いた。
そこには――
「冬実さん、三繼期さん? どこに行ってたんですか?」
嬉しそうだが奥底に悲しさも混じった表情をして部屋に入って来た、冬実と三繼期。
二人はちらと顔を見合わせた。そして、三繼期が口を開く。
「実は、さっきまで素凰様の所に行ってたんだよ。終にはもう言ったんだけどよ……今日から、俺様と冬実は一人前になったんだ。だから――」
その先は、聞き取れなかった。いや、耳が聞き取る事を許さなかったのだ。
突然の報告を、羅維納は受け入れられずにいた。
「……私達は、一足先に一人前になったわ。だからね、もうこの部屋からは出て行かなきゃいけないのよ。いきなりで悪いとは思ったけど……ね」
まるで世界中の絶望を抱えたように悲痛な顔をしている羅維納を気遣い、冬実は優しい口調で言う。
この時の羅維納にはまだ知る由もなかった。二人が一人前になっても、またいつでも会えるという事を。
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