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バイクの走行音は徐々に遠ざかっていく。しかし、羅維納は男を目で追うだけで一向にその場を動こうとしなかった……。
×××××××
山道を猛スピードで下りていく一台のバイク。先程一人の死神と対峙していた男は独り言を呟きながら、更にアクセルを踏みしめる。
「はあ……何なんだあいつ。あんな所で死んでたまるかってん、だ――!?」
サイドミラーに映った人影。それは、自分を殺そうとしていた死神だった。
「……死神から逃げられるとでも思った?」
「ひっ……! お前どうやってここまで、追って来たんだよ!?」
「これから死ぬ人間に教える必要はない」
羅維納は男の乗るバイクと同じ速さで、追いかけていた。
「だから、まだ死んでたまるかってんだ! 何なんだよお前は!」
「貴方に拒否権はない。『強制参加』なんだから。それに、死神の宣告は人間如きに止めることなど出来ない」
「五月蝿い!!」
男は一言吐くと、更にスピードを上げて羅維納を引き離した。二人の距離は開いていく……。
山道の途中にある小さな駐車場。男はミラーに何も映っていないのを確認した後、バイクを停めた。
「ふぅ……何とか引き離したみたいだな。水でも飲むか」
男は安堵の息を漏らす。叫んだ所為か喉が痛い。鞄に手を付けた瞬間、喉が焼ける感覚が男を貫く。一体何が起こったのだろう?
「はあ……あ゛あぁ……!?」
声が出ない。人の気配。男は上を見る。そこにはさっき引き離した筈の死神、羅維納の姿があった。
枝の下に逆さまに立っている。まるでその向きが普通であるかのように。
「声出ないでしょ? 私が喉を切ってあげたの。これで騒がれずに済むね」
男はガタガタ震えながらも、羅維納から目を離せずにいた。
「さあ、殺しちゃお」
羅維納はどこからか大きな鎌を取り出す。そして、目に見えない速さで男に向かって振り回した。
「――――――ッ!!」
男は声にならない叫び声を上げ、その場に倒れた。周りは血の海。男の苦痛に歪んだ死に顔を見て、羅維納は笑う。
「ふふ……然様なら」
冷たい春風が羅維納の頬を掠める。暗闇が支配する山道の中で、彼女は自身に言い聞かせるように呟いた。いつの間にか、彼女の顔からは笑みが消えている。
「私は死神、神楽羅維納……。私はこれからも死神としての使命を全うします――」
その呟きは誰の耳に入ることもなく、夜空の中に消えていった。
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