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「バスが……」
「ばすが?」
疲労が言葉に乗っているかの様な重い口ぶりでカケルは言う。
「四分前に出てしまった…………」
「……?
それがどうしたというのだ。待てばいいだけの話ではないか」
眉一つ動かさず、ムーナは怪訝な顔をする。
「そりゃあ普通はそう言うよね……」
カケルは呟き、フィアとムーナを仕草で近寄らせた後、目の前にあるバス停であることを示す棒にプレートが付いたそれの、格子で区切られ何かが書かれている部分を指でなぞる。
「これはバスの運行表。で、この八時四十二分のバスが最も近かったんだ。そして今は……八時四十七分。そして次のバスは…………」
強い日差しで見づらい携帯に苦戦しつつ現在時刻を確認したカケルは、今指し示している部分から下にずらす。
「――十時三十分だ」
カケルが外気の暑さとは裏腹な、冷たく確固たる現実を静かに言い放つ。
ムーナは唸り、眉をひそめる。
「……つまり、このままではおよそ2時間の待ちぼうけを喰らうという訳か」
「そういう事になる」
至極残念そうに答えるカケル。気のせいか、その顔には暑さ以外のだるさが混じっているようにも見える。
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