狩人のマスク

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シホはゆっくりと顔を上げると、重い口を開いた。 「私、ノゾムと付き合ってたんだけどフラれちゃったの」 全員で園川の方へ視線を集めると 「あぁ…コイツとケンカして全部が嫌になって、この先一緒にいるのは無理だって思ったんだ」 とゆっくりとした口調で話した。 「でも、シホさんは周りで『フッた』って話してますよね?」 アンナの言葉にシホはピクッと反応すると 「フラれたって言うのが恥ずかしくて、周りにはフッた事にしてる」 と少し声が小さくなりながら答えた。 「でも、周りにそうやって嘘つくのが辛くなって、苦しくて、こんな思いをするのはノゾムのせいだって思ったの」 シホの目には涙が溜まっている。 「ノゾムにこの苦しい気持ちを全部味わわせようと思ってネットに書き込んだら、この方法を教えて貰ったの」 モモコとアンナは言葉を失った。 「でも、言う通りにやったのに…上手くいかないなぁ」 「おいっ!」 ユウタが立ち上がろうとしたが、ズボンの腰元をモモコに引っ張られてドスンと床に座った。 「いてぇな!」 「シホさん、まだ喋ってるでしょ!?」 シホはユウタの方を見ながら 「ノゾムを陥れようと思った時は悪いことだなんて分からなかった」 と話した。 「あのさ!」 「ユウタっ!」 「いいから言わせろ」 ユウタはモモコの方に掌をかざして制した。 「悪意の“悪”って字が“善”と違って左右対称じゃないのはさ、自分からの悪はひっくり返れずそのまま返ってくるからなんだよ。自分の“悪”を受け止める覚悟は出来てるのか?」 少し黙ると、シホは 「…受け止める。ノゾムは私の事をもっと嫌いになったと思うし、許してもらえないと思うけど、悪いことしたんだから償わなきゃね」 目から一粒涙を流しながら答えた。 「ほら、私を警察に突き出して」 シホがてを差し出すと 「あぁ、ムリムリ」 ユウタは手を横に振った。 「えっ!?」 「もう勤務時間終わるので」 ユウタが指差すと、時計は10時前を指していた。 「知ってます?事件は警察に立件しないと犯罪にならないんですよ」 アンナがニッコリ笑いながら言うと4人はその場を立って玄関へ向かった。 「ちょ…ちょっと!」 「あぁ、必要あれば追加依頼としてやりますけど、あとは園川さんと相談して決めて下さい」 モモコが手を振りながら言った。 園川の顔がフッと笑ったように見えると、4人は笑い返して玄関のドアを閉めた。
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