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野良犬
アパートの入り口で、その足は止まった。
息を殺ろし、音を立てず、半歩さがった。
前方には、消えかけては、また点く、瞬(まばた)きをする外灯があった。
その、明かりの中に、黒いジャンパーの男と、煙草を吹かし、アパートを見あげる男がいた。
足はさらに後ずさりをした。
ジャンパー姿が視界から消えると、一八〇度回転をして、急ぎ足で、その場を離れた。
角を曲がると、足は駆けだしていた。
息を切らし、いくつかの角を曲がり、紫色の看板の前で、その足は止まった。
バー初音と書かれたドアを開け、中へ飛び込んだ。
「いらっしゃい、どうしたのですか、巻野さん、息など切らせて」
「野良犬に追いかけられまして」
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