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放課後、よくわからないと文句を垂れる、私の持ってきた数学の問題に彼はしばし没頭した。
彼が解答し終わるまでの、この待っている時間が好きだった。
これは他の誰のものでもない、2人だけのもの。
私達は特にお互いに関して深くまで話すこともなかったし、勘ぐりを入れるようなこともしなかった。
私が笑えば彼も笑い、またその逆も然りであった。
表面にそっと触れるだけの、そんな関係。
私はいつしか彼のことを慕い、
彼も彼で、私に曖昧な愛情表現を繰り返した。
……春の夜の風が私の間をそっと通り抜ける。
そんな回想からはいい加減開放されたいのに心はそれを許さない。
反芻された記憶は、私の気づかないうちに少しずつ脆くなり、いい様に美化されていく。
もう同じ場所にはいない彼を思う。
去る者は追わない主義、そんなものはいとも簡単に崩れ去った。
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