別れのとき

4/6
前へ
/6ページ
次へ
放課後、よくわからないと文句を垂れる、私の持ってきた数学の問題に彼はしばし没頭した。 彼が解答し終わるまでの、この待っている時間が好きだった。 これは他の誰のものでもない、2人だけのもの。 私達は特にお互いに関して深くまで話すこともなかったし、勘ぐりを入れるようなこともしなかった。 私が笑えば彼も笑い、またその逆も然りであった。 表面にそっと触れるだけの、そんな関係。 私はいつしか彼のことを慕い、 彼も彼で、私に曖昧な愛情表現を繰り返した。 ……春の夜の風が私の間をそっと通り抜ける。 そんな回想からはいい加減開放されたいのに心はそれを許さない。 反芻された記憶は、私の気づかないうちに少しずつ脆くなり、いい様に美化されていく。 もう同じ場所にはいない彼を思う。 去る者は追わない主義、そんなものはいとも簡単に崩れ去った。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加