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「ただいま…あぁ、鳴海さん。お久しぶりです。車が出てたから誰かと…どうされたんですか?」
凜さん
その後ろに社長
「ご無沙汰しております」
「佐恵子が呼んだんだろう。鳴海さん、夕飯はまだ?食べて帰らない?」
もう限界
佐恵子さんと合わせる顔がない
「鳴海様、お待たせしました」
「いえ、これで失礼します。遅くにお邪魔してすみませんでした」
頭を下げてすり抜けて
「鳴海さん」
開けてくれた後部座席のドアを凜さんが止めた
「鳴海さん、母と何かあったんじゃないです?どうしてそんな」
「凜さん、沢本家の指輪ってご存知ですか?」
「指輪?」
車が走り出すと堰を切ったように涙がこぼれ落ちた
一筋、もう一筋
「…っ」
今日は色んなことがありすぎた
大森さんの涙もあの手紙も佐恵子さんの責めも
もういっぱいいっぱい
何度後悔しただろう
何度思っただろう
私があの時止めていれば
あの時
止まらない
顔を覆っても今更隠せない
「鳴海様、先程の指輪の話は伺ったことがございます。沢本財閥というより、奥様の祥子様のご生家に伝わる物でございます。ファミリーリングをご存知でしょうか?御家族様全員お揃いの指輪をされ、一族の証のようなもの。それが沢本家のポストに入っていたそうです」
…まさか
「他の御家族様はお持ちです。紛れもなく那生様のもの。祥子様は大変ショックを受けられて、取り乱されたと…」
助手席から執事さんの声
捨てたの?
もう家族はいらない?
あんなに心配されてるのに
この声は届かない?
「手紙が入っていたそうです。
『もっと早くこうするべきだった。息子は死んだと思ってください』
と。祥子様は床に臥せっていらっしゃるそうで奥様もお見舞いに行かれました」
どうしてそんな酷いことが出来るの?
息子を捨てた親と家族を捨てた彼
私にはどっちも理解出来ない
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