2じかんめ「愛情弁当」

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幼稚園を飛び出して暫く当てもなく、一心不乱になって走っていて信号が赤になったのを見て立ち止まって息を整えていると少し冷静になってきた そして傘も持ってこないで出てきたことを後悔している、俺 思ったよりも土砂降りのせいでシャワーを浴びているみたいになってしまった 「あー…傘くらい、持って来ればよかったな」 誰に言うわけもなく(というか誰もいないんだけど)呟いた一言も雨音に掻き消された とにかく、二人の行きそうな場所を探さないと 信号が青に変わったのを確認してから今度は走らずに歩きながら思考を巡らす 一樹くんの話を聞く限り、外では三人で遊んでいたみたいだから雨が降って皆を室内に入れないと…と俺たちがバタバタしていた頃を見計らって二人は園内から外に出たんだろう 正門から出た様子はないみたいだけど、俺たち大人と違って二人は小さな幼稚園児、他に抜け道のようなものがあった可能性がある、確証はもちろんないけれど… そんなことを考えながら歩いていると俺に集まる視線に気づいて傘を持ってない上にこんな恰好だったら怪しまれてしかないよなと苦笑する 二人が行きそうな場所、担任になったばかりの俺にそんなの分かるわけがない 翠川先生に頼めばよかったなと思いつつも今更後悔しても遅いし、連絡する手段もないし取り敢えず二人の家を目指して歩く 「あれ…紅花先生?」 寒さに身体を震わせながら歩いていると後ろから声を掛けられて振り向くとそこにいたのは日向くんのお母さんで 買い物帰りなのか傘とスーパーの袋を持ってこちらを怪訝に見つめていた 「あぁ…どうも」 「ほら、やっぱり紅花先生や!イケメンさんやから覚えとったのよー、どないしたん?傘もささんと…しかもまだ仕事中やないんですか?」 「少し、野暮用で出てまして…傘を持ってくるのを忘れてしまったんです」 大阪の人特有の矢継ぎ早な口調と大きな身振り手振りに呆気にとられながらもなんとか返事を返す 本当のことは園の信頼が下がることだし、この人に言ったところで何の解決にもならないだろうと思って黙っていることに決めてそのままやり過ごして二人を探しに行こうとしたけれど前に立ちふさがって動いてくれる様子はない 俺が急いでいるのなんて全く知らない彼女は良い暇つぶし相手を見つけたとでも思ったのかすごい勢いで世間話を始めた .
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