2じかんめ「愛情弁当」

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「おべんとーね、いつもなの」 「え?」 「ママいそがしいから、おべんとーないんだ、ぼく」 「でもね、今日はつくってあげられるよって、ママが昨日言ってたの」 まだまだ雨は降りやみそうになくてむしろ雨脚はどんどん強くなっているようで、純也くんもまだ姿を見せないし、俺と麗くんは身動きが取れない 一人の園児とこんなに密接な距離感でずっと一緒にいるなんてなんか新鮮(少し緊張してしまってる自分もいたりする…) やはり話題は麗くんと純也くんが出て行ってしまった原因である弁当の話に自然となってしまう 「でも、いきなりおしごとが忙しくなっちゃって、ダメだって…」 「そっか…楽しみにしてた分、お弁当がなかったのが寂しかったんだね?」 「うん…、ぼくがね、いつまでも元気ないから純也くんが『何かあったの?』って言ってくれてね?それで、このこと話したの」 「それで、二人で出て…お弁当はどうするつもりだったの?」 「ぼくの家に行ってみようって、純也くんが」 「…一樹くん、とっても心配してたよ?なんで一樹くんに黙っていったの?」 俺が麗くんの顔を見つめながら一樹くんの名前を口に出すと麗くんは表情を強張らせて俺の服の裾をきゅっと掴む 「一樹くんは、だめなの…」 「え?」 「一樹くんをね、きけんなことに付き合わせちゃだめなの!」 弱々しい声から一転強い口調に変わった麗くんに驚いて目を見開く でも、その声は少し震えていて、何かを必死に隠そうと怯えているようにも見えた 「そっか、でも一樹くんにもちゃんと心配かけてごめんねって言うんだよ?」 「うん、ちゃんと言う」 これ以上聞いたら麗くんは泣いちゃうんじゃないかと思って何も聞かずににこりと笑えば麗くんも安心したのかにこりと笑いながら頷いた 純也くんや亮太くんの一樹くんに対する異常なまでの過保護っぷりに麗くんのこの怯えている様 俺が来る前に一樹くんの身に何かあったんだろう、もしかしたら前任の先生が関係しているとか? 他の先生たちは全然前任の先生の話をしたがらないし…もしかしたら口に出せないような理由で幼稚園を辞めることになったんじゃないか そんなことを考えているとびちゃびちゃと水が跳ねる音が聞こえて視線を前にやるとこちらを驚いた様子で純也くんが見つめていた .
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