1じかんめ「自己紹介」

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「ほら、タツ先生―自分の自己紹介してないやん?」 「こらっ、関西出身やないのに関西弁使うな何べんゆーたらわかんねん、みどり先生―」 「んははっ…イントネーションとか無茶苦茶やしー!」 翠川先生が俺のフォローをして場の空気を和ませようとしてくれたのかてきとーに言った関西弁にタツと呼ばれた先生は眉間にシワを寄せて口を尖らせ、四谷先生は爆笑しながら自分の太ももを叩いている 「まぁ、自己紹介してへんのはホンマやけどさ…、えーと、はな先生でいいんかな?俺は、大原辰徳!年少担当で、愛称はタツ先生やから、はな先生もそう呼んでぇな」 「あ、は…はい」 「なんや、はな先生てあれやな、無愛想な面やな!」 「こら、あかんやろ!そんな言い方!はな先生かて初日で緊張してんねんな?」 大原先生の勢いに圧倒されながらやっとわかったその名前を脳内に記憶していると四谷先生が俺をじっと見つめてきて 何かと思えば言われた一言にどくん、と心臓がはねる そんな俺の気持ちなど知りもしない大原先生のフォローに苦笑いを浮かべていれば園長が入ってきて朝礼が始まった 表情についてこれ以上言及されることはなくなって安心したけれど、心臓はまだ鼓動を速めていて 幼稚園の先生として大事なもののひとつに園児を安心させるべく振りまく笑顔というものがある 俺だって、それくらい分かっているし園児には笑顔を極力向けるつもりだ 『紅花先生って優しいなぁ…私の先生も紅花先生が良かったぁ』 『幼稚園を維持するのに園児とお金が大切なのくらい君にもわかるだろう?』 『あぁ、高崎さんのところ引っ越したらしいですよ』 『…まぁ、あんな事件に巻き込まれちゃ…ねぇ?』 蘇る、前の園での記憶 俺に向けられた最後の笑顔 下劣な園長の笑み ぐるぐると頭を支配するそれに吐き気すら覚えてしまって 「はな、先生?」 「っ…!?、みどり、先生…」 完全に自分の世界に入ってしまいいきなり翠川先生に声をかけられればびくりと肩を揺らしていつの間にか掻いていた嫌な汗に気づいて自分を落ち着けるために深呼吸を一つ 心配そうに見つめる翠川先生にぎこちなく笑みを向ければ園児たちが待っている講堂へと足を踏み入れた .
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