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そんな俺に対し、理事長は近くに置いてあった接待用のソファに腰掛けながら、肩をすくめる。
「あら、あれだけ生徒に人気あるのに『なんか』なんて謙遜はただの嫌味にしか聞こえないわよ」
へえ、人気だったのか。 そりゃ意外だ。
「まあそういうことよ。 生徒からの信頼も厚いし、経験を積む意味でも適してるだろうし、何よりあなた冷静だし。 私なりに結構いい判断をしたつもりよ」
その口振りからすると、教員会議で決まったというよりは完全に独断だな。 まあ別にどうでもいいが。
それよりも、この話を素直に呑むかどうか、だ。 まあ理事長は特別変人ではあるが、いやだからこそ思ったことはそのまま口にする傾向があるようだ。 今言ってたことは、大体あっているんだろう。
それに藪から鉄の槍、などとは言っていたが、別に担任を持つのが嫌なわけじゃあない。 むしろこちらとしてはありがたいくらいだ。
「分かりました。 精一杯勤めさせていただきますよ」
「そう、分かったわ」
その言いぶりにその表情からして、まさに自分の思い通り、といった感じか。
かくして、俺の教員人生はこの日を境に大きく変わるのだった。
余談ではあるが、総受験者数は大体二、三千人くらいだった。 理事長の気まぐれで行われる入試テストだってのに、何でこんなにも毎年人が集まるのかは全く持って不明である。 不正を犯した生徒は幸い一人も出ずに済んだ。 ああ、更に余談で、俺が現場監督務めた為に、別の先生が俺の授業を肩代わりしてくれたみたいらしい。
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