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ただ夜空を見上げて、しばらくした時だった。何故か知らないけど酔っ払いに絡まれた。まぁ、夜も遅い時間だし、この駅前付近は有数の飲み屋街だから仕方ない。
「なぁ~、おにぃ~さぁ~ん。クラブいこ~うぜぇ~?やぁ~すく、するからぁ~」
「いや、そんな金ないので」
「だぁ~いじょ~ぶ!そんなケ~カイしなくってもぉ~、いくのはぁ~ホストクラブだしぃ~!」
「は?」
「いがいにいるんだっぜぇ~?オトコなのにぃ~、ホストクラブくるヤツってぇ~」
「そ、そうですか……」
「だからさぁ~……」
なんて、酔っ払ったキャッチの話を聞いていたら、いきなり違う声が割り込んできた。
「待たせて悪いな。ヒマだっただろ?」
「うわっ!?」
意外にもすぐ近くで聞こえたその声に反応する前に、手を引かれる。突然のことにバランスを崩したけど、割り込んできた声の主に支えられた。意外に力強く支えられて、驚く。
「コイツは俺の連れなんだ。ホラ、行くぞ?」
訳が分からないまま、手を引かれその場から離れていく。酔っ払いキャッチから解放されてホッとしたのは良いけど、自分の手を引くこの人は誰だ?何が目的だ?そんな次々と浮かんでくる疑問を精査するヒマもなく、少し離れた所で歩みが止まる。そこでようやく、割り込んできた声の主と向き合った。
「いきなり悪かった。ずっと近くでタバコを吸ってたんだけど、絡まれてんのが見てられなくてな」
「それで、あんなことを?」
「ああ。迷惑だったか?」
苦笑いしながら、割り込んできた声の主はそう言って頭を軽く掻いた。よくおっさんとかが照れたり気まずい時にやる、あの仕草。でも仕草にしては見た感じは若くて、多分だけど20代の後半くらいだと思う。黒のロングコートに、同じ黒のスーツを着てて、革の鞄を持ってる所からすると、サラリーマンっていうのが可能性としては一番高い、ような気がする。
「いえ、助かりました。話を聞いていても、同じことばかりだったので」
とりあえず、そう言ってみた。何事も、円滑な人付き合いをするには建前でもいいから相手の意見を受け入れることだと思う。今回の場合は、相手に感謝しておけば問題ないハズだ。でも、本当の事を言えば、酔っ払いのキャッチといえども、話を聞いていればこの気持ちが少しはマシになるんじゃないかと思ってた。実際はそんなことなくて、内容が同じことばかりでひどくつまらなかったけど。
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