20人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼくは、田舎のとある農家の家に生まれた。
田舎といっても芸能人たちが一日農業体験をして家庭料理を食べ、
そこの家族とふれあう心温まる物語とかは多分作れないだろう。
要するにそういう『都会人』たちが引くほどのド田舎、なわけだ。
見渡す限りの山、山、山!
そしてそれを無理矢理切り開いたような集落に、田んぼが少しだけ広がっている。
そんな小さな村だった。
道路が整備されていないため、車やタクシーも通ることが困難で観光に来る人なんかいない。
もちろん公共交通機関なんてないに等しく、
ぼくは高校に入るまでは電車の存在も知らなかった。
そんな世間から隔離されたような田舎だったが、子どもの数はそれなりに多く、
ぼくが小学生のとき通っていた小学校には、
一学級30人のクラスが各学年に2つずつあった。
初めは自分の知らない、少し遠い所から来る子と友達になったりしてわくわくしたが、
入学して少し経つとみんな顔なじみのようなものになり、
体育大会も球技大会も、代わり映えがせずあまり面白くなかった。
友達も、
『今更かけっことかやってもな、いつもみんなで走りまわってるしなあ』
と苦笑交じりに語っていた。
閉鎖的な田舎の小学校、つまらない行事。
でも、ぼくには唯一楽しみにしているイベントがあった。
――遠足だ。
遠足といってもそうたいしたものじゃない。
近くの山に登山に行くとか、紅葉狩りに行くだとか。
時々山が川に変わったりとか、
そんなものだ。
費用もかからないお手軽な行楽で、ぼくの学校では年に2、3回の遠足があった。
まあ、実を言うと遠足自体はそう楽しいものじゃない。
ぼくらは毎日毎日自然を遊び場にして走り回っていたから、
目新しさは全くなかった。
川に入ればザリガニや小さな魚を捕まえて大興奮し、
山に入れば珍しい形のキノコだの山菜だのを取って大騒ぎしていた。
だからわざわざ遠足で山だの川だのに行かなくても、
という考えを誰しもが持っていて、
ぼくもそのうちの一人だった。
だが、遠足には普段遊ぶのと違い、遠足にしかない魅力があった。
―そう、おかしが買えることだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!