300円ルール。

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ぼくの学校では、 遠足にはきまって300円分だけおかしを持っていけることになっていた (俗に言う『300円ルール』だ)。 ぼくが遠足のなにが好きだったかというと、 普段よりうんと贅沢をしておかしを買えることだった (月のおこづかいが大体100円であったから300円というのは随分な大金だった)。 もちろん、ぼくだけじゃなく他のみんなにとっても遠足のおかしは魅力的で、 特にぼくらの間ではきっかり300円分で どれだけいいおかしを買えるかを競うのが流行っていた。 遠足の前日、 ぼくはいつもこの『300円ルール』のために胸を高鳴らせながらお店へと駆け込んだものだった。 コンビニとか百貨店なんて洒落たものがあるわけのない村で、 ぼくらがどこでおかしを買ったかというと、 田んぼのあぜ道の側にぽつんと立っている駄菓子屋だった。 そこは一人のおばあちゃんが経営している『たみや』という名前の駄菓子屋で、 子ども向けのおかしが小さな店内をさらに狭く見せるようにたくさん置かれている。 放課後には小学生がこぞって立ち寄る、格好の寄り道場所だった。 ―遠足の前の日になると『たみや』は大盛況で、たくさんの小学生で店はにぎわっていた。 あとでトレードしような、と高いキャラメルを大胆に買ったり、 こまごましたチョコレートとかガムを買って少しでも量を増やそうとしたり。 それぞれが自分の好きなように300円分のおかしを取りそろえる。 ぼくはそんな凝った戦略を立てている小学生が買いものをしている風景を見るのも好きだった。 ぼくもまた、なるべく賢い買い物をしようと、売り場の前で毎回頭を悩ませた。 …さんすうは苦手だったから、いつも失敗してしまったのだけど。 それでもぼくは遠足に行くと決まる度にわくわくして、 『バナナはおやつに含まれますか?』 なんて言って笑いをとっているやつを小突きながら 『たみや』で300円きっちり買い物をする。 その度に ―300円ルールって、誰が考えたのかな と、子ども心にも不思議に思ったものだった。 しかし、最初に考えた人は天才に違いないとも思っていた。 だって、こんなにわくわくすることは他になかったのだから。 .
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