エピローグ

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寒い。 厚着してるのに、少しぶるっとする。 まあクリスマスなんだから当たり前か。 なんて考えて冷たくなった手に息を吐きかける。 手袋もしてくればよかったかもしれない。 「寒い?」 彼がそんなことを言ってきた。 寒いからこうやって暖めてるんだよ。 何となく無視して空を見上げる。 あ、雪降ってきた。 そういえば雪が降ってるクリスマスってホワイトクリスマスって言うんだっけ。積もったらだっけ。 どっちでもいいけどさ。 こんなとき彼女ならロマンチックとか言ってはしゃぐんだろうなあ。 でもロマンチックだとかそういう類いの物に興味が沸かない対照的な私。 冷めてるなあ、とそれを自嘲的に心の中で笑う。 「えっ? あっ……」 と、彼が何も言わずに私の手をとった。 驚いて見上げた私の瞳にうつった彼の頬は、まるで雪遊びしてる子どもみたいに真っ赤。 手をつなぐだけで真っ赤になるなよ。 そんな彼が可笑しくて私は思わず笑う。 それで自分が真っ赤になってることに気付いたのか、彼はこれは違うだのあーだのこーだのあたふたする。 子どもみたいな彼に合ってない大きな手を、私はそっと握り返す。 うん、さっきより少し暖かくなった。気がする。 はあっ、と夜空に向かって吐いた白い息は、ふんわりと落ちてくる雪と同じように儚く消えていく。 私は詩人か、とまた心の中で笑って左手の上に落ちてとけた雪を見た。 アリサ、と彼が私を呼ぶ。 私はいつの間にか大人しくなった彼を見上げた。 彼の瞳に、私の姿がうつる。 すると彼は本当に、心から嬉しそうに微笑んだ。 そして、『ありがとう』と一言だけ言う。 ……何が『ありがとう』だよ。お前らしくもない顔してさ。 と、言おう思ったけど、何故か何も言えなくなってしまった。 そんな風に黙り込んでいたら、怖い?なんて訊いてくる。 別に、と言ったけど、彼は私の握ってる手をぎゅっとした。 「はあ……」 空いてる方の手にまた息を吹きかける。 ……そりゃ、『初めて』なんだから怖いよ。 痛いんでしょ。血も出るって聞いたし。そんなことしたことないし。 不安だらけさ。 それでも。 私の『初めて』はお前にあげる、って、決めたから。 だから……、優しくしてね。
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