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夜の帳が落ちた帝都は、常にない慌しさに満ちていた。
けれどそれは、祭のような温かみのある賑わいではない。
市中の至るところに検問が敷かれ、武装した兵士が隊を組んで駆け回る。
辺りが光に溢れる中、灯された明かりで照らせぬ闇のような小さな人影が一つあった。
軍服にも似た丈の長い黒のコートを羽織り、その下の衣服も黒の上下で肌の露出は極端に少ない。
コートに付属したフードを目深にかぶり、顔立ちははっきりとしない、不審な人影だ。
「そこのきみ、止まりなさい」
女性的なふくらみは見えず、背丈も十代の少年少女ならば平均程度と正体の知れない人影に、不信感を抱いた兵士の一人が後ろから声をかける。
その声に人影は素直に立ち止まり、振り返りながらフードを取る。
フードの下にあったのは、少女の顔だ。
大半をコートにしまわれた長髪は、そのコートより更に真正な漆黒。
前髪の間からは、同じ漆黒の瞳が冷淡な光りを放つ。
服装も含めて黒尽くめの少女は、しかしその肌だけが対照的な白だ。
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