1153人が本棚に入れています
本棚に追加
校門を出て、貴文は再び花月に尋ねた。
「なあ、ホームセンターに付き合う気ない?」
「ありません。」
花月は笑顔できっぱりと断り、小さく会釈すると、ホームセンターとは逆の、自宅への道を道を歩いていった。
「お前覚えておけよ!」
まるで悪役の捨て台詞のような言葉を花月の背中に吐き、貴文はホームセンターへの道を歩き出す。
ざらざらと目の粗いアスファルトの道路の所々に蝉が腹を向けて転がっていた。
早くも、彼らが一夏の人生を終える時期がやってきたのだ。
暗い土のなかで何年も暮らし、ようやく外に出られたと思えば、たった数週間でその命が終わってしまうというのはあまりに理不尽な気がして、貴文は蝉の亡骸を見るたび、憤りにも似た感情を覚えるのだった。
大通りにかかる歩道橋を渡り、だらだらと続く上り坂を登ると、ようやくホームセンターが見えてきた。
貴文と同じように、資材を買いにきた夕霧高校の生徒たちがホームセンターの前に群れている。
正確に言えば、ホームセンターの前の自動販売機の前に群れているのだ。
貴文も思わずポケットの中に手を入れ、小銭の数を数えたが、本来の目的を果たすため、まずホームセンターの中に入った。
自動ドアが貴文のために開く瞬間、彼は足元から全身を包むであろう冷気を想像し、息を吸い込む。
しかし、思っていたほど店内は涼しくなく、期待が裏切られた分、むしろ暑く感じられた。
電話で頼まれた内容を口の中で反芻しながら、貴文は売り場を移動していく。
そしてセールと書かれたポスターの下に積み重ねられたガムテープに手を伸ばしたとき、貴文は思いがけない人物を見た。
それはあの楠原の彼女である原夏希だった。
彼女はすらりとした体躯と垂れ気味の茶色い目が魅力的な、高校生らしからぬ色気を持つ少女だった。
細い脚を惜しげもなく制服のスカートから出し、彼女は同じく夕霧高校の制服を着た男子生徒と腕を組んでいた。
ところが、その男子生徒は楠原ではなかった。
なにやら見てはいけないものを見たような気がして、貴文は素早くガムテープを買い物かごに入れると、その場を足早に去った。
他にも入り用な物を購入して店を出た貴文は、自動販売機で水を買った。
頭が痺れるほどよく冷えた水を飲み、ようやく冷静になれた貴文は自動販売機の近くにいた、友人に声をかける。
最初のコメントを投稿しよう!