待の章

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声をかけられた友人は、貴文が手にする大量のガムテープが入った袋を見て、苦笑いした。 「雨宮も買い出しか。俺も、ほら。」 そう言って示されたすのこをおざなりに見てから貴文は尋ねる。 「なあ、楠原の彼女いたよな?」 「ああ、原?いたね。男連れて。」 「あれ誰?」 「ええと……なあ、誰だっけ?」 彼が一緒にいた友人たちに聞くと、口々に答えが返ってきた。 「三年の先輩。」 「たしかテニス部の元部長だったはずだよ。」 「この間は7組のやつと一緒にいたよな。」 「ああ、あれはキープだろ?」 「そうそう、だって本命は楠原のはずだし。」 「でも楠原にはもう飽きちゃったんじゃないか?」 「そういえば、今狙ってるのはあの美人な一年らしいぞ。」 それまで黙っていた貴文は慌てて聞き返す。 「美人な一年って、もしかして花月?」 「そうそう、藤間君だっけ?あ、そうか、雨宮と仲良いんだったな。」 「でも花月と楠原の彼女に何の接点もないと思うんだけど……。」 貴文の言葉を聞いた友人たちは、一斉に笑い出す。 「接点なんて関係ないよ。みんなが羨むような男を落とすのが趣味だもん、原って。」 酷い言われようだとは思ったが、先ほど男と手を組む原を見てしまった貴文は何も言えなかった。 学校へ戻る道をとぼとぼ歩きながら、彼の頭の中では自分が見た光景と、友人たちが言った言葉が汚ならしく混ざりあっていく。 来た時と同じように歩道橋を登った貴文は、ホームセンターで原を見たときよりもさらに驚いた。 ちょうど歩道橋の真ん中に楠原が立っていたのだ。 楠原は貴文を見ると、苦い顔で笑った。 「買い出し帰り?」 「お、おう。」 「俺もこれから行ってくる。暑いのにこんな遠くまで来たくないよな。」 「あ、ああ。だよな!」 貴文の態度の不自然さが気になったのか、楠原は急に黙り混む。 沈黙に耐えきれなくなった貴文は、慌てて言葉を繋いだ。 「楠原のクラスは何やるの?」 「……ゲームだよ。男女ペアになってもらって、3つのミッションをクリアしてもらうんだ。」 「ミッションって?」 「基本的になぞなぞだよ。例えば『丸くて熱くて海の生き物がいるものはなんでしょう』とかいうなぞなぞがあるとするじゃん?そしたらたこ焼きを食べてもらって、たこ焼きの模擬店やってるクラスでシールとかスタンプとかもらうんだ。」
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