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「なるほど、それでスタンプ集めると景品かなにかがもらえるんだな?」
「うん、そういうこと。もう行かないと。またな、雨宮。」
「う、うん、また。」
楠原は義務的な愛想笑いを残して、貴文の隣をすり抜けていった。
貴文は楠原と原が鉢合わせしないことを願うしかなかった。
花月が楠原には気を付けたほうがいいと言ったのは、やはりこういうことだったのだろうか。
本人がその場にいないので、推し量るしかないが、おそらくそうなのだと自分に言い聞かせ、貴文は歩道橋を降りて、学校への平坦な道のりを歩いていく。
大量のガムテープの重さで指先が痺れた頃、貴文はようやく学校に戻ってくることができた。
重い足取りで教室に荷物を持っていくと、女子たちがなにやら頭を寄せあって話していた。
「頼まれてた資材買ってきたよ。」
声をかけると、女子たちは瞬く間に散開する。
その統率の取れた動きに半ば感心していると、女子のクラス責任者である小竹が貴文から荷物を受け取り、礼を言った。
「ありがとう、助かった。」
貴文は女子の不審な動きが気になって、尋ねる。
「みんな何話してたの。」
「え?あー、えっと……。」
開放的な性格の小竹が口ごもるので、貴文は余計に気になり、他の女子に視線を移す。
女子たちは気まずそうに顔を見合わせてから、そろって苦い顔をして言った。
「原さんのことを話してたの。」
「そうそう、彼女が誰と文化祭まわるのかなって思って。」
「最近もっぱら三年生の先輩といるから、その人じゃないかって。」
一人が喋り出すと罪悪感が薄れるのか、女子は口々に言い出した。
その勢いに気圧されながらも、貴文は、なんとか足を踏ん張って尋ねた。
「でも原は楠原と付き合ってるよね?」
その言葉を聞いた途端、女子は呆れ顔で目を細める。
それは先ほどホームセンターの前で見た表情と酷似していて、貴文は既視感に目眩を覚えた。
「原さんにはそういうの関係ないんだよ。」
「そうそう、楠原君ってかっこいいから、オトせたところで完結しちゃってるの。」
「最近一年生の彼……藤間君狙いって聞いたよ。」
こうなってくると女子の勢いはとまらなくなり、本当のことかどうか定かでない言葉が次々と飛び交った。
目まぐるしく交わされる言葉についていくのが精一杯な貴文に、小竹が呟く。
「楠原君と友達なら、彼にアドバイスしてあげたほうがいいかもよ。」
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