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 二人はビルが立ち並び車が行き交う賑やかな大通りから路地裏に入り、大きな木造建築の家の前で立ち止まった。 花月は感慨深そうに屋敷を見上げた。 「本当にこのままなんですね。」 「おう。」 屋敷の門の前にはダリアの鉢植えが置いてあった。 門を押し開けると、錆びた蝶番がきいきいと音をたてる。 苔むした飛び石が玄関まで配置され、その両脇には並木のように棗や茱萸の木が植えられている。 花月はいとおしそうにそれらを眺め、吉次のほうを振り返った。 「実際に来たのは初めてですが、見ていた通りでした。」  何も知らぬ人が聞けば、この奇妙な言い回しを不思議に思うであろう。 そして「きっと写真でもみたのだろう。」と納得するに違いない。 しかし花月の言う「見た」ということは少々違う意味を含んでいた。 彼の眼は様々なものを見ることができる。 そこには藤間家にまつわる悲しい物語があった。  花月は庭に通じる木戸を見つけると嬉しそうに微笑み、ゆっくりと開けた。 「ああ、よかった。」 なにもかも見た通りだ。 花月の背中に吉次は話しかける。 「うちには藤間の人間のような力はあらへんし、植物は季節のものが自然の摂理のまま咲いとる。昔は真冬に向日葵やら朝顔やらが咲いとったからなぁ。」 「曾御爺様のせいですね。もっとも僕がこの屋敷に入ると同じようなことが起きると思います。しかたありません。」 「ハハハ、真冬の朝顔もなかなかオツなもんやしな。そないなことよりはよ中に入りや。長旅で疲れたやろ。」  花月は吉次に促され屋敷の中に入った。 吉次が一人で管理しているわりには整っていて、手入れが行き届いている。 花月は吉次について二階に上がった。 階段の軋む音がどこか懐かしい。
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