変わらないモノと変わってしまったモノ

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  初恋だったんだと思う。 俺にとっての初めての恋。 俺の人生で最初で最後の恋。 高校生活最後の冬。 無邪気に眠るその寝顔に、そっとキスをしたんだ。 誰も知らない、俺だけのファーストキス。 唇が触れた瞬間に、心臓がフルフルと震えた気がして その振動で仁が目を覚ましてしまわないかと、慌てて唇を離した。 だけど、仁は呑気に眠ったままで。 俺の恋心に気づくことはなかった。 「こんなとこでなにやってんの?」 「あ…うん、仕事で…仁は?」 「俺も営業先がそこでさ、時間あいたからフラフラしてたとこ」 「そっ…か…――、」 忘れたことはなかったよ。 その無邪気な微笑みも、優しい眼差しも。 変わらずに俺の記憶に焼きついているよ。 何も変わらない。 だけど。 その左手だけは、変わってしまったんだな。 あの頃のお前は、薬指に誓いなんて立ててなかったのに。 「結婚…したんだな…」 「あ、うん。俺も秋にはパパだぜ?すごくねぇ?」 「ははっ…そりゃすげぇな」 変わってしまったんだな。 何もかも。 どうせ変わってしまうのなら 季節が変わりゆくように、人の心も変わってゆけばいいのに。 俺の心はあの頃から変わらないよ。 そして、お前の心も。 end.  
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