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なんだか、一気に身体中の力が抜けて、いろんなことがどうでもよくなっちゃったよ。
お前に対する俺の理不尽な憤りとか、自分に対する歯がゆさとか。
ほんと、どうでもいいわ。
完全ノットアウト。
お前の中から俺が消えてしまっていなかったこと。
それだけでもう、十分だよ。
「…つかさあ、マジでなんでそんなに迷ってたわけ?仁のくせに意味わかんねー」
「だってさぁ、なんか気づいたら誕生日過ぎちゃってたし…なんか今更かなって…」
「ふはっ…つか、逆に覚えててびっくりなんだけど?」
「はあ?忘れるわけねぇじゃん!俺が今までお前にどんだけ貢いできたと思ってんの?」
「はー?聞こえが悪ぃーだろ、俺がプレゼント強要したことなんかあったっけ?」
「え?…や、あったし!ぜってぇあったはずだし!」
「そうだっけ?覚えてねーや」
「…ま、どうせ俺があげたくてあげてたからいいけどさ…」
「ははっ!や、いつもありがとな?」
「…うん」
久しぶりなはずなのに、一気に距離が縮まるのはなんでだろう。
あんなに会っていなかったのに。
電話もメールもしてなかったのに。
こうやって声を聞いて話をすれば、一瞬でいつも一緒にいたあの頃に戻れる。
ほんとに不思議。
離れた距離によって、間違いなく心も離れてしまったはずなのに。
俺の心は、一瞬であの頃に戻ったよ。
そして、きっとお前も。
「…んじゃ、とりあえず切るわ」
「ん、また連絡…しろよ?」
「あー…まぁ、気が向いたら?」
「まぁ、そうだな」
「うん、そうでしょ」
「ふはっ、うん、じゃあまたな」
「うん、またな」
そうそう、この感じ。
俺たちの間に、理由とかそんなものは必要ないんだよな。
すべては曖昧で明確だ。
それが、間違いなく同じ時を過ごしたという実感がある人間同士にしかわからない不思議な感覚。
心に刻まれた記憶は永遠だ。
たとえどんなに離れてしまったとしても、一瞬で取り戻せるモノならば
その確信さえあれば、たとえカタチの無いモノでも、俺は信じていけるよ。
end.
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