流行

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Sは目が覚めると、まずテレビをつける。 それは、習慣というよりは、流行の番組を見るためだった。 時間はきっかり7:00 この時間が大切だ。 見逃すことなど、あってはならない。 ブラウン管の中では、ニュースキャスターが深刻そうな顔をしている。 ――自殺者の数は、年々と増加傾向で…… ――専門家のMさんをお呼びしました…… 「それがどうした」とSは思う。 Sは、流行のパンを咀嚼すると、流行の牛乳で流し込む。 流行のブランドのスーツを着替えながら、流行の腕時計でチラッと時間を見る。 7:14 あと、1分だ。 ニュースキャスターが、先程までの暗い顔から、急に明るい顔になる。 声のトーンも上がっていた。 ――今月のトレンド!! 今月は、先月と引き続き、赤いネクタイと白いスーツの組み合わせが流行るでしょう!! そう、それでいい。 誰も、自殺者がどうとか、経済がどうとかいう事は、気にしてはいないのだから。 実際、ヘラヘラと笑っているキャスターだって例外ではないだろう。 流行に乗れさせすれは、万事がスムーズに進むのだから。 Sは、今日も流行の靴を履き、流行の車で会社に行くのだろう。 世界は流行で溢れていた――
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