才能

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Kは才能に溢れた絵かきだった。 彼の1枚の絵を見た者は、悲しみを感じると言い。 ある者は、夏に降る雨だと言い。 またある者は、ダンスをする男女だと言った。 Kは仕事部屋の中で、何時間も真っ白なキャンバスの前に座っている。 唸りながら、アイディアが湧き出るのを待っていたのだ。 以前なら、こんこんと湧き出る清水のように、書きたい図柄を思うように描くことが出来た。 しかし、周囲の期待や、それによるプレッシャーが、彼の才能を潰してしまっていた。 Kは悲しそうに呟く。 「なんにも思い付かない…… 私の才能は涸れてしまったのか」 彼は、タバコに火をつけ 1本、2本と消費し…… 苛立ちから、思わずキャンバスに、ちびたタバコを押し付ける。 なにも描かれていないキャンバスの真ん中に、汚らしい茶色の染みだけが残った。
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