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「おーい、宮野?」
「え?」
気がつくと、私の顔の前に大きな手が動いている。
「てっちゃん?」
「おおーやっと気がついたか。今日は朝からぼーっとしてるな。何かあったか?」
私が夢の世界から戻ったのを確認すると、てっちゃんは画面に向きなおった。
「あ、うん。ごめん。ちょっと寝不足で」
「めずらしいな、いつもはどんなに徹夜したって元気なのに。らしくないじゃん。しかもミスも多いし」
「うん。分かってるよ。ごめん」
「……なんか今日はやけに素直だな」
「うん、ごめん」
「……お前、今日俺に昼飯おごれよ」
「うん、って、なんでそうなるの?」
「いや、ちゃんと聞いてるかと思って」
どうやらてっちゃんは何度も私を呼んでいたらしい。
だけど、その声は私には届いていなかった。
今日はやることもたくさんあって忙しいというのに何をやっているのかと想い、頬を叩き、気合いをいれる。
「よし!」
「どーしたんだ?急に」
「気合い入れたの!よっしゃーやるぞぉー!」
そういって、ペンタブレットのペンを持ち、プレゼン用の画像を制作していく。
そんな私を見つめている、てっちゃん。
「お前さ、もう少し頼ったらどうだよ」
「何?」
「何かあったら話聞くし、それにお前の仕事俺が手伝ってやるからたまには早く帰れ」
「てっちゃん……。ありがとう、でも私は大丈夫!さぁ、てっちゃんもそんな余裕なこと言ってないで、自分の仕事さっさとやる」
てっちゃんは優しい。
入社してすぐのころはその優しさに甘えて、何度も助けてもらった。
だけど、いつからだろう。
こうやって誰にも頼らないで、自分1人で何もかもを抱え込むようになったのは。
年のせいもあるかもしれないけど、働きすぎると体が重い。
でも、誰に助けを求めるわけでもなく。ただひたすら画面と向き合って、仕事を進めていく。
それが今の私だ。
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