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ポストに『参加』と書いたハガキを投函してから、あっという間に時は過ぎ、いつの間にか同窓会開催日を迎えていた。
この一ヶ月間、いつも通り忙しく毎日が過ぎていって、高校時代のことを思い出す時間もなかった。
だけど今、案内が記載されているハガキを手にしてお店の前に立っているとほんの少しだけ、あの頃のことが思い出されてしまう。
頭に浮かぶシーンは決まって川村くんとキスをした夕暮れの教室。
そのイメージを振り払うかのように首を左右に振り、両手で頬を叩き、気合いを入れる。
「よし、いざ出陣!」
勢いよく飲み屋の扉を開こうとしたら後ろから声をかけられた。
「ねぇ」
声は男の人の声だ。
そしてどこか聞き覚えのある声。
私はまさかもしかしてと思いながらゆっくりと後ろを振り返る。
「もしかして宮野さん?」
「あ、えーっと?」
そこに立っていたのは小奇麗な格好をした、黒斑めがねのよく似合う青年。頭をフル回転させてみるが、誰だか分からない。
「やっぱり宮野さんだ。って、俺のこと分かんないか」
「ご、ごめんなさい」
「昔と少し雰囲気違うかな?そーいや眼鏡してなかったか」
きっと昔の自分の姿を思い浮かべながら前髪を触って、さわやかな笑顔を見せてくる。
たいていの女子はこの笑顔にトキメくかもしれない。
「小野寺だよ。久しぶりだね」
「あ、小野寺くん?!学級委員長の?」
「せーかい。よかった覚えててくれて」
小野寺巧くん。
彼は我々のクラスの学級委員長を努めていて、そして川村くんの一番の友達。
「中に入らないで何してたの?」
「いや、ちょっと気合いをいれてて」
「あー、そういえば光司とのこと噂で聞いた。って、いきなりあってこの話はないよね」
「ううん、それはいいんだけど」
私がいいずらそうにしていると、小野寺くんが問いかけてくる。
「もしかして日向のこと?」
川村くんの名前を言われ、思わず目を丸くして小野寺くんを見る。
「え?」
彼に聞こえるか聞こえないかという小さな声を発した瞬間、私を呼ぶ大きな声に私の言葉はかき消されてしまった。
私の名を呼んだ人物は高校時代の友人、舞子だった。
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