写し鏡の月

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       * 貴哉と知り合ったのは、かれこれ2年前になる。 職場の打ち上げが終わり、ほろ酔いで歩いていた帰り道。 夜風が気持ち良くてゆっくり歩いていた・・・・・のに私はコケてしまった。 「いたたたたた。せっかくいい気分だったのに。」 ペッタリ座り込むと、痛みと酔いが回った足はなかなか言うことを訊かない。 「この辺タクシーもなかなか通らないのにー」 手をついて、ヨイショと立ち上がろうとしていると 「大丈夫?」と、声をかけられた。 「あ。はい。多分、大丈夫です」 なんだか急に恥ずかしくなって、慌てて立ち上がろうとして、またよろける。 「大丈夫じゃなさそうだね。手を貸すよ」 腕を掴まれて、私はやっと立ち上がった。 「ありがとうございます。」 洋服を払って、顔をあげるとなんだか見たことがある気がする。 「あの・・・・」 「やっぱりわかんないか。俺、君の最寄り駅の駅員。」 苦笑しながら貴哉は言った。 私は頭の中で駅員の制服を着せ帽子を被せた。 「あー。私服だとわかんないもんですね。すいません」 「良いんだよ。今日はデートだったの?楽しそうな後ろ姿だったけど?」 「いえいえ。職場の打ち上げで。」 「そっかぁ。ところで歩ける?」 「多分。大丈夫かと・・・・」 ガクン・・・・ 刺すような痛みが走る。
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