写し鏡の月

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―お礼はアドで良いから― 貴哉の言葉がぐるぐる回る。 わざわざタクシーを拾いに行ってくれたお礼はしなくて良い筈はない・・・・ 土日足を休ませていると、なんとか月曜日からは出勤出来たので、アドをメモしてバックに入れておいた。 けれど、シフトが変わったのか、偶然居合わせなかったのか数日彼の姿を見ることは無かった。 なんだか拍子抜けした。 そしてまた数日後。 残業して遅くなり、人影もまばらな駅。 改札を抜けて家路につこうとしていると 「足はすっかり良くなったみたいだね。」 と、後ろから声をかけられた。 驚いて半分飛び上がったかもしれない。 振り向くと同時に「あはは。驚かせたね。ごめん」と笑う貴哉がいた。 「びっくりしました。」 しどろもどろで答えると 「ごめんごめん。ところで夕飯食べた?」 「いえ。まだですけど。」 「俺、もう上がりなんだけど、10分位待っててくれない?」 「え?あ。はい。じゃ、ロータリーのとこにいます。」 「やった。それじゃ急いで行くから!」 びっくりした勢いでOKしちゃったけど・・・・ ま、いいか。どうせ一人でなに食べようか思い付いて無かったんだし。 久しぶりにワクワクしながら貴哉が来るのを待った。
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