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「……ッ! 〝護れ〟!」
「〝ガング・ウィンダ〟」
しかし、魔法を唱えるよりも先に、素早く反応したヴァルが俺の制服の襟を掴み、引っ張りながら俺と橙色の髪の男との間に割って入ってくれたお陰で、風の槍が俺を襲うことはなかった。
「間一髪、ですね」
「ごめんヴァル……」
「謝られるのは好きじゃありませんね。それよりも……」
ヴァルに促されて、その目線の先に俺も注意を戻す。
「何で……あんなにピンピンしてんだよ……」
つまらなさそうな表情を浮かべる橙色の髪の男は、俺の剣戟やヴァルの魔法により重傷と呼べる傷を負っているにも関わらず、無傷の時と何ら変わらない足取りで、ゆっくりと、離れた距離を詰めてきていた。
「何で、だァ? テメェらが弱ェだけだろうが」
そう言い、橙色の髪の男は緩徐な動きで三度手を翳す。
「〝護れ〟!」
その動きとほぼ同時、ヴァルのガントレットに青白いラインが浮かび上がり、同色の輝きがヴァルを包んだ。
「随分とせっかちじゃねぇか」
「警戒しておいて損はありません」
「護る……だっけか? そんな状態でよく言えるモンだな。テメェ、魔力殆ど残ってねぇだろ」
「もしそうなら、何だと言うのです?」
「……あァ、そうだな。俺には到底関係ねぇ事だったな」
独り言のように、橙色の髪の男は呟く。
「くっそ……〝地鎧〟」
短いやり取りを行っている二人に対して、俺は属性の魔力を纏って俺は何とか立ち上がろうとするが、思うように足が動いてくれない。その上、纏ったばかりの鎧は脆く崩れ落ちて行き、気持ちが逸る。
俺の魔力も、もう殆ど残っていない……いや、空に等しいのかもしれない。我ながら、こんな状態でよく意識を保っていられるものだと思う。けど、ここで意識を手放したら……。
下半分は茶色、左半分は黒の情景、霞んでいる景色、ぼんやりと見える風景の中で、橙色の髪の男は言った。
「護る力も無いクセに、そんな責任感の無い事、言ってんじゃねェよ」
瞬間――俺の見える景色は、紅一色に変わった。
音。
やけに静かなこの場所に、砂を詰めた袋が落ちたような、そんな音。
程々に高い金属音が、二つ。
水の音。
それらが過ぎると、近くで生まれた音は治まった。
「ヴァ……ル……?」
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