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「だから言っただろ? 脆いって」
俺に現実を突き付けるように、可能性を否定するように、橙色の髪の男は言う。
「お、おい! ヴァル!」
這いつくばりながらもなんとかヴァルの元に行き、声を掛ける……返事がない。脈は…………ある、けれど。辛うじてという感じで、出血が酷い。まるで全身の血管が破裂してしまっているような、それくらい血が流れてしまっている。
「くっそ! くっそ……!」
きっと、このままじゃヴァルは……。
「何よそ見してンだ?」
「うぐぁッ!?」
蹴り飛ばされ、口の中に鉄の味が広がる。
「そんな風に、他人に同情して、意識を割いて、どうになる?」
「……ぁあ……」
左腕を通して、鈍い音がした。《暦巡》を強く握っていた左手は、踏みつけられ、握ることもままならない。
「何一つ護れないのに、護ろうとして、どうになる? 何が変わる? 力が無いのにも関わらず、足掻いて、何になる?」
何だか夢の中にいるような感覚を通して、橙色の髪の向こうに黒い空が見える。
遠くに、雨の音がした。
悔しいけれど、何も言い返せない。口まで、上手く動いてくれない。
視界がぼやけて、目尻に滴が垂れる。
俺は何も出来ないのか?
自問して、滴が溢れ出しそうになった時、それが揺れた。
水晶玉を通して見たような景色。そこに浮かぶ橙色が突然消えた。
「……僕の恩人を、大切な友人を愚弄するのは、止めてくれないか?」
声でわかった。
「……ユー……リ……」
辛うじて絞り出た声で確かめてみるが、やはり完全には声にならなかった。けれども、そうだよと、確かに返事が帰ってきた。
「次から次と……ったく、テメェはさっきと同じように震えてりゃ良かったのに、わざわざしゃしゃり出てくるたァ……どう言った用件だ? あァ?」
「用件はもう言った筈だよ。引くつもりがないのなら、僕が相手をする」
「はッ! よく言うぜ。まだ足が震えているクセに――」
「〝風よ〟。二度は言わない」
「ユー……リ……」
橙色の髪の男の言葉を遮って風を放ったユーリに、戦ってはダメだと、ヴァルを早く連れて行けと、言おうとしたが言葉が続かない。だが……
「嫌だよ」
そう、はっきりと答えた。
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