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「馬鹿な選択だと思うかい? けどね、君も同じ状況なら同じことをしただろう? いや、君ならきっと、それ以上に愚かな事をする。そう言い切れる位に君は愚かだ。自分の許容範囲を越えるような事でも、出来ないと言われようとも、しようとする。酷く強情で傲慢で我が儘だ」
それでも――と叫んだ。
「僕もそうありたいと思った! 君に憧れた! 弱いからといって、何も出来ないわけじゃないと教えてくれた! 僕に、抗う事を与えてくれた! 僕はもう! “カリエール”の傀儡としてではなく、“ユーリ”として生きる事を決めたんだ! だから! 僕も君のように理想を語ってやる!!」
ユーリがそう言い切ると、少しだけ風が吹き、俺の頬を優しく撫でた様な、そんな気がした。
「テメェが……ユーリ=カリエールか……」
そして意外にも、黙ってユーリの言葉を聞いていた橙色の髪の男は、問う。
「そうだよ。それが何か?」
「……あの女……エノーラ=カリエールの息子か」
「どうして……僕の母上の事を知っている?」
「死ぬ間際でも笑っているような……テメェらみてぇにいけ好かねぇアマだった、只それだけだ」
「……死ぬ間際……だと……?!」
「……ん? ああ、そうか。テメェは知らねぇんだったな、そりゃそうだ」
「答えろ! どうしてお前が、母上が死んだ時の事を知っている!?」
橙色の髪の男の発言に対して、ユーリにしては珍しく、激昂している。そんなユーリとは正反対に、橙色の髪の男は落ち着いた様子で、「懐かしいな……八年前……だったか?」と大して懐かしくもなさそうに溢した。
八年前と言われて思い付くのは、この前レディに聞いた事件だが、ユーリのお母さんは事件に巻き込まれて亡くなったのだろうか? それに……さっきヴァルも八年前がどうのって、言っていた様な……。
何があったのだろうと、疑問を浮かべてはみるが、ダメだ。頭が働いてくれない。何とか保とうとしてきた意識も、とうとう限界らしい……。
ユーリもヴァルもエルも放って、こんなところでくたばるわけにはいかないのに……。
しかし、そんな最後の抗いも全て呑み込んでしまうように、俺の意識は深い黒へと堕ちていった。
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