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「そうかもね。だけど気が付いたんだよ。お前は忌むべき対象なのかもしれないし、母上の死の淵に居たのは不快だけど、母上は既に、八年前に死んでいるんだ。その母上の最期の事をお前に訊いたって過去が変わるわけじゃない」
橙色の髪の男はふーんと鼻を鳴らして、少しだけ唇を歪ませて笑った。
「まァ、俺としてもそれについちゃ、基本的にどォでも良い事だけどよ、一つ、訂正して貰おうか」
「何だい?」
「忌むべき相手ってのは相手が違うんじゃねェのか?」
「なら、お前はあの場で何をしていた?」
「んー……あー……殺そう、とはしていたが手は出さなかったってとこか?」
「……そうかい。じゃあ、質問を変えるよ。お前があの事件の術者か?」
「術者、だァ? ……本当にテメェらは何も知らねぇんだな」
「どういう事だい?」
「そのままだ、言葉そのまま無知だと言ったンだよ。テメェらガキって奴は何時の時代も何も知らない。滑稽だな」
憐れむような表情を浮かべて僕を見る橙色の髪の男は、「なァ、知っているか?」と言葉を続ける。
「テメェの母親を殺した奴が誰かを」
「興味ないよ。さっき言った通り、母上は既に死んでいるんだ――」
「ソイツが、殺した奴が生きていたとしても、か?」
楽しそうに口角だけを歪ませて、僕が返す言葉を待っていましたとばかりに遮って、男は歪な笑みを見せた。
「お前は……知っているのか?」
訊くべきではないと、相手の言うことを鵜呑みにするべきでないと、わかっていながらも、僕は訊ねてしまう。真相を。
「勿論だ」
それこそ、過去が変わる筈でも無いのに。
「……聞こう」
相手の思うつぼだとわかっていながらも知りたいと思ってしまう。あの日の事を。僕が弱かったばっかりに、目を背けてしまった日の事を。
「“エルシー=スチュアート”。それが、テメェの母親を殺した相手だ」
けれど、そうして告げられた真実は、あまりにも残酷なものだった。
嘘だ! と叫んでも、嘘じゃねェと返される。
「考えてみろ。あの場で生き残っていたのはそこに倒れている顔に傷があるガキと、テメェが大事にしている闇髪のガキの二人だけだ。そこでテメェの母親を殺した奴が生きていると言われてみろ、誰だって殺したのはその二人のどっちかだって容易に想像がつくだろうが」
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