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「お前は……どうなんだよ……」
「はぁ? 俺は手を出してねェって言ってンのに、そんなおかしい事言うわけねェだろ」
「そんなの、証拠がないじゃないか……」
「証拠かどうかわかんねぇが、そこで倒れてるボウズのガキの顔面の傷がいつからあるか思い出してみろ」
力のない反論に対してそう言われ、思い出し、口にする。
「……八年前の……あの日……」
ヴァルの左眉から外側にかけて広がるの古い傷跡。あれは紛れもなく、あの日に負った傷の跡だ。
「あれも闇髪のガキが負わせたモンだ。ボウズのガキがあの日どんな怪我をしたのかも知ってンだろ? 対して闇髪のガキはどうだった? 無傷だっだろうが。そこまでわざわざ言ってやってんだ。それでもテメェはまだ嘘だって言うのか?」
僕は少しだけ、視線をずらして闇のように真っ黒な髪をした少女を見る。やはりあどけない表情で眠る彼女が誰かを傷付けるようには見えない。
……深く息を吐く。橙色の髪の男は怪訝な顔をするが気にしない。
「そう、だね。お前が言っている事は嘘じゃないかもしれない。けれど、そうそう簡単に信じられる話でもない――だから、僕は自分で確かめる」
「テメェ……馬鹿じゃねぇの?」
橙色の髪の男は呆れた声でそう溢す。もっともな反応だと、僕自身も思う。無理もない、結局、一番安易な考えを選んでいるのだから。
テメェは紛れもなくあの女の子供だ、と、男は言う。不快そうに顔を歪ませて。
思わず、不謹慎ながらも笑ってしまい、男は更に顔を歪ませる。
「何、笑ってンだ」
「失礼、お前が不愉快そうに口にしたのが誉め言葉だったから可笑しくってね」
「……チッ、テメェ、自分で確かめるって事がどういう事かわかって言ったのか?」
「おや、それはつまり見逃してはくれないって事かい?」
「テメェが大人しく端で震えているってなら、見逃す、かもしれねェな」
「そりゃあ、無理なお願いだね。結界を解除してくれるつもりはないんだろう?」
「……そうかよ」
それを皮切りに、僕は《宣告のフルール=アッティア》で風を打ち出し、男は魔法を発動する。
時間がない。倒れている二人はきっと、危険な状態だ。待ってなんていられない。だけど勝てないかもしれない。死んでしまうかもしれない。
それでも、今やらないと、きっと僕は一生後悔するだろう。
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