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風は届く。確実に。それは紛うこと無き事実だろう。……けれど、風を通して見える橙色の髪の男の姿に僕は形容し難い不安を覚えた。
だから少しだけ、僕は足に力を入れてほんの少し、後ろへと――跳んだ。
直後。
「テメェやっぱ、あの女と同じで嫌いなタイプだわ――」
些細な違和感。行動に移したのはそんなちっぽけな理由にすぎない。けれど、それが僕の運命を、分けた。
「――〝原因不明の大竜巻〟」
風の中で差し出した男の手の平に魔法陣が浮かぶ。
そこから沸き上がるのは膨大な量の、逆巻く雷を纏った水。
それは、僕の風を呑み込んで迫り、更に、僕を巻き込んで、空間を蹂躙した。
「ぐ……ぁっ……」
全てが止み、水と風に纏っていた魔力ごと皮膚を切り裂かれ、雷に全身を焦がされた僕は、立っている事はままならず、地に伏していた。
けれど、少しだけ下がっていたお陰だろう、直撃は逃れられ、致命傷を受けるという事態は避ける事が出来た。
だが……まさかこんな作戦とも呼べない方法で、無理矢理すぎる手段で僕の魔法を避けようとは、誰が思うのか。普通、少しでも負う傷を減らそうとでもするところだろう。
しかし、呆れ混じりに浮かんだ思考は、相手が普通では無かった、と、根本的に否定される。
「チッ……しぶてぇ奴等だな……」
何とか起き上がった僕に、どう見ても僕よりも酷い傷を負っている橙色の髪の男は悪態をついた。
「粘り強いってのは……上等、だね……〝ガング・ウィンダ〟」
魔力を身に纏い、傷む体を動かして、僕は風の槍を放つ。
「〝ディレクト・ウィンダ〟」
けれど、避けられ、追加で魔法を放つも、それも防がれてしまう。
「〝風よ〟!」
いつになったら倒れてくれるんだと、少し怖じ気付きそうになるけれど、考えるから駄目なんだと無理矢理正当化した僕は、考える事はやめ、ひたすらに攻めに徹した。
「……しつけェな……〝ガング・ウィンダ〟」
「ぁッ……!」
……しかし結末は、意図も簡単に、たった一本の風の槍を突き刺されるという事だけで、無様にも僕は膝頭を地に着けるという結果だった。
敵は一人じゃないのに、黒いフードを被った男は何も手を出さず、ずっとこちらを傍観しているだけなのに……それなのに……僕は……。
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