Flag11―玄色―

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 腹立たしい。無力な自分が。こんな状況下でも、昔だったらもしかしたら……と、無い物ねだりをしている自分が。 「あー……昔は神童とか呼ばれていたんだってなァ? テメェの母親もとんだ的外れな希望を抱いていて、可哀想だな」  何もかもを否定され、嘲笑されて、何も出来ないのが悔しかった。  僕の視界には偶然か、嫌でも、小さく写るエルシーと、息の浅いヴァルとツカサ君が入っている。  皆……ごめん。  声になってくれない言葉を呟くと、目の奥が熱くなり、視界がぼやけた。  何を考えているのか、橙色の髪の男は僕に手を伸ばしてくる。けれど、ゆっくりと迫り来るその手が僕に触れる直前、視界が――波打った。  すると、唐突に、目を覆っていたものが拭い去られ、激しく揺れる髪の隙間から橙色の髪の男が吹き飛んでいく光景が微かに見えた。  一瞬呆気に取られてしまったが、僕は助かったらしい。 「君は……」  けれども。 「ツカサ君……なのか……?」  言い知れぬ不安が、僕の中に鎮座していた。  さっきまで倒れていたツカサ君はいつの間にか立ち上がり、何の言葉も口にしない。けれど、やっぱり僕の瞳に映る彼はツカサ君で、僕を救ってくれたのも彼だった……筈なのに。  何かが、違った。  魔力が。大量の魔力が、彼から溢れ出ていた。それは気持ち悪くなる程、濃い魔力で、混濁とした黒い色で、僕の中の不安を余計に酷く掻き立てる。  溢れている魔力の量は尋常ではない。天に届きそうな勢いで立ち上ぼるそれは、まるで蝕むかのように結界の頂点部分を崩した。 「ツカサ君、返事をしてくれ!」  何だか、彼が彼でないような気がしてしまった僕は、そう呼び掛けてみるけれど……答えてはくれない。  只、無言で、割れた結界の欠片が煌めきながら降ってくる中で、彼はその禍々しい魔力をその身に纏った。 「テメェ……どうして動けンだよ」  遠くで、立ち上がりながら、橙色の髪の男は言う。  けれど、その瞬間、男の目の前には、ゆらゆらと魔力を揺蕩わせながら左半身を引いているツカサ君が居た。  そして、鈍い音と共に砕かれた筈の隻腕で自身の契約武器を握り、真っ黒に染まっている刀身を――振るった。
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