Flag11―玄色―

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 ツカサ君のただならぬ雰囲気から警戒しているのか、橙色の髪の男は目の前に透明な何かに出して防ごうとするような素振りを見せるが、ツカサ君が刀を振るうと共に放たれた膨大な魔力はそれを許さなかった。  しかし、膨大な魔力と衝撃を間近で浴びたものの、流石というべきか、橙色の髪の男は思ったよりも痛手ではなかったらしく、空中で上手く体勢を整えて両足で着地する。 「……テメェは一体、何だ」  そう、男は問うても、返ってくるのは言葉ではなく、振るわれる刀からも伝わってくる、明確な殺意だった。  振り下ろされる黒い刃を、男は体を捻り、避ける。避けた後の体勢は、かなり無理で、無防備に見えるが、男にとっては大した問題ではないのだろう。  そこから追撃に来る横薙ぎを、上に跳ぶ事で難なく回避したが、ツカサ君は更に刺突を繰り出す。  だが、同時に、橙色の髪の男は手を、その腕に向けて伸ばしていた。  瞬間、ツカサ君が腕を伸ばしきるよりも早く、鈍い音が響いたと思うと、ツカサ君の左腕全体が、あらぬ方向に折れ曲がった。  それにより刃が届かなくなり、大きく隙を作ったツカサ君に、男は魔法を放つ。 「〝原因不明の大竜巻(ノアブライズ・トロンベ)〟」  既に放たれた混合魔法を、それも至近距離で発動されたものを、ツカサ君が防ぐ術はない。  雷を伴う水の竜巻が彼に牙を向くと、彼は更に赤く染まり、引き摺られ、腕だけでなく、足までもが目を背けたくなる程、折れ曲がっていた。  けれども、彼を覆う暗澹とした魔力は消える事なく彼に張り付いており、そればかりか、濃度はさっきまでよりも増しているようにも見える。  滅茶苦茶な方向に折れ曲がっているにも関わらず、契約武器を手離していないツカサ君は属性のわからない魔力に形を与えていく。  そうして彼は、不気味な黒をした鎧に包まれた。  ……が、しかし、彼の纏うものの変化は、終わっていなかった。  一瞬だけ、鎧の形になった時、微かに変化は止まったようにも見えたそれは瀟洒だった見た目を歪ませる。  彼の頭部を覆っていたものには横に一本の裂け目が入ったかと思うと、隆起し、まるで獣の口のようなものを形成した。  一方、首から下の魔力の鎧は、当初の形を殆ど保っていない頭部に比べると、変化は少ないが非常に刺々しい印象を受ける。
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