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そうして変化を終えたツカサ君のその姿は、まるで、現在では滅んでしまったと伝わっている『竜人』のようだった。
けれども、竜人にしてはいくらなんでも禍々しすぎる。
身長や体格に変わりはないものの、おどろおどろしく変容してしまった鎧や、暗澹とした魔力に包まれて恐ろしく黒に染まり、もはや刀とは呼べないまでに変わり果ててしまった刃は、力が及ばなくても僕らを守ろうとしてくれたツカサ君の印象とは、大きくかけ離れてしまっていた。
鎧の纏った黒い竜人は、折れている筈の両足で地を踏み拉き、砕けている筈の隻腕に握られた剣をほんの少しだけ揺らす。
そうして、間もあけず――吼えた。
耳を劈くような咆哮は、体に深く響いて気持ちが悪い。これを近くで浴びようものなら吐き気に襲われて胃が空っぽになってしまいそうだ。
……そう、感じたと同時に、何処かで理解してしまった。
形容するのは難しいけれど、やっぱり今の彼は、ツカサ君は、彼では無い、と。
そんな彼が一歩、足を踏み出したと思うと、その姿は既に橙色の髪の男前にあった。
そうしてそのまま左腕を振るう。
橙色の髪の男は大きく見開いた目で苦い顔を作りながら軽く舌打ちし、しゃがんで避けるも、刃から溢れだした混濁は、校舎に当たり、大きく学院を揺さぶった。
とはいえ、橙色の髪の男にそれは当たっていない。
左腕を振り抜いた状態のツカサ君に対して男が手を向けると、ツカサ君の体は捩れ、折れ曲がる。今となっては少し聞き慣れた音もした。
……が、そんな状態であるにも関わらず、ツカサ君は力ずくに腕を動かして、橙色の髪の男を執拗に付け狙う。
「〝ヒンディ・ウィンダ〟」
こればかりは守りにに徹さなければいけないと判断したのか、橙色の髪の男は後ろへ下がりながら防御魔法を発動した。
橙色の髪の男の目の前に浮かび上がった五芒星の魔法陣からは風の膜が広がるが、刃から吐き出された魔力はそれを削り取っていく。
その様子を見た男は魔法を発動したまま横に体をずらし、魔法陣の横から腕を突き出す。
するとツカサ君は何かに思いきりぶつかられたかのように吹き飛んで行ってしまった。……これも橙色の髪の男の何らかの力を使ったのだろうか?
僕の疑問を他所に、ツカサ君は次なる行動へと移っていた。吹き飛ばされた先で、彼は隻腕を横に広げる。
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