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目を凝らして確かめたい事があるのに、歯痒い。今を逃すと、彼らを犇と見れる機会はないのに。
「ほら、立てるか?」
だけどそんな時、少し荒い息が混じった言葉と共に、傷痕と肉刺だらけの手が後ろから差し出された。
「ありがとう、大丈夫……だよ。まさか君に助けて貰えるとはね……」
「はぁ……立っていられなさそうだから言ってんだよ。それに、これは貸しだ」
「そっちの方が気が楽だよ、コーチ君」
まるで救世主のようなタイミングで現れた彼は、呆れた表情から更に頬を緩めて、ほんの少しだけ微笑むけれど、それも一瞬、直ぐに険しい顔へと変わる。
「それで、これはどんな状況だ」
遠くで睨み合っている両者を、僕の視界の端で一瞥したコーチ君は、そう問い掛けてきた。
確認したい事を終え、膝から崩れ落ちながら振り向いた僕は、そこで漸くこの場へやってきたのはコーチ君だけではないと気付く。
「……なんだ、結局全員来ているじゃないか」
「アハハ、皆優しいからねぇ」
「素直じゃない方も多いですけどね」
「……何で俺を見るんだよ……」
僕の溢した呟きに、彼ら彼女らは、らしい言葉を返してきた。そんな様子を見ていると、こんな時でも少し羨ましく感じる。
「すまない、話を戻そう……と、言いたい所なんだけど、倒れているヴァルを運んで来てくれないか?」
今、規模の大きい戦いを繰り広げていた両者は、相手の出方を見ているのだろう、睨み合って動かない。肌を刺すような緊張感が、僕らにも漂っては来ているが、運が良いことに僕らは蚊帳の外。本来、こんな状況であまり会話をするべきでもないのだろうが、戦闘を再開するよりも先にヴァルを端の方へ避難させないと、いつ巻き込まれてしまうかわからない。
「酷い状態ですね……」
コーチ君がヴァルを運び、ゆっくりと下ろしたところで、ヴァルの傷を見たルーナさんは苦々しい表情で呟きながら両手をヴァルへと向け、ある魔法を発動した。
「ルーナさん……回復魔法を使えたのか……」
「ええ、お母さんが保健医をしていて、小さい頃に少し教えてもらった事があります。とは言え、難しいものは使えませんし、回復魔法を使ったからといって無くなった血が戻るわけでもありませんから……」
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