プロローグ

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【1】  その声は遠くて、かすれていた。 『あなたは……生きて……私より長く、優しい世界で……』  彼は頭を振る。主(あるじ)に反抗するのは、初めてだった。 『これは、命令ですよ……?』  主に従うのが彼自身の本懐であり、それは絶対だ。  しかし、彼は頭を振る。何度も、何度も── 『あなたの、「極北」の任を解きます。お疲れ様でした……』  やめてくれ。俺はこの国に、いや──キミに忠誠を誓った。  居場所を与えてくれたキミと離れられるものか。  敵なら俺がなんとかする。もう誰一人としてキミに近づけさせない。  本当だ。信じてくれ。全世界が攻めてこようと、戦い続ける。だから── 『もう、あなたは……自由、に』  遠い。かすれて、途絶えて、静かに声は消えた。  何もない。  もう、聞こえない。  もう──
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