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その年。十歳になった冬のこと。
ケージはいつも通り些細な〝いざこざ〟に巻き込まれていた。
いや、自ずから巻き込まれるように行動していたと言うのが正確か。
「っ……ラインハルト! 先輩に刃向かうか!?」
道場の最年長である十二歳の彼は、相変わらず甲高い声で怒鳴った。
「じゃあ先輩。この鍛錬の意味を説いてくださいよ。俺に」
ケージは年長者に対する配慮が足りなかった。
理不尽だろうと苛立とうと、付き従うのが先輩後輩の常識なのに、やはり若く幼かった。
理不尽を解せない。
苛立ちはなくても問題を放置できない。
ケージはラインハルト家の長男として厳しく己が『義』について考えさせられ、武人の心得を叩き込まれていた。
信じた『義』を貫き通す高潔こそ美徳。それが武人の本懐だと、家訓にあった。
「ケージくん……」
口から流れ出る血を拭い、背中に隠れる同輩が言った。
「心配するな」
ケージはそうやってよく気の弱い同輩を安心させていた。
「鍛錬を邪魔するなど言語道断。いやラインハルト、さては特別な鍛錬を受けたいのか?」
「違いありませんぜ。先輩!」
「さすがは誉れ高き突撃バカのラインハルト家のご子息。ひたすら鍛錬したいってか。けっけっ!」
恵聖館の裏手、森が開けた場所に絵に描いたような不良の先輩三人の嘲笑が響く。
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