第一章:邂逅の日

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 その年。十歳になった冬のこと。  ケージはいつも通り些細な〝いざこざ〟に巻き込まれていた。  いや、自ずから巻き込まれるように行動していたと言うのが正確か。 「っ……ラインハルト! 先輩に刃向かうか!?」  道場の最年長である十二歳の彼は、相変わらず甲高い声で怒鳴った。 「じゃあ先輩。この鍛錬の意味を説いてくださいよ。俺に」  ケージは年長者に対する配慮が足りなかった。  理不尽だろうと苛立とうと、付き従うのが先輩後輩の常識なのに、やはり若く幼かった。  理不尽を解せない。  苛立ちはなくても問題を放置できない。  ケージはラインハルト家の長男として厳しく己が『義』について考えさせられ、武人の心得を叩き込まれていた。  信じた『義』を貫き通す高潔こそ美徳。それが武人の本懐だと、家訓にあった。 「ケージくん……」  口から流れ出る血を拭い、背中に隠れる同輩が言った。 「心配するな」  ケージはそうやってよく気の弱い同輩を安心させていた。 「鍛錬を邪魔するなど言語道断。いやラインハルト、さては特別な鍛錬を受けたいのか?」 「違いありませんぜ。先輩!」 「さすがは誉れ高き突撃バカのラインハルト家のご子息。ひたすら鍛錬したいってか。けっけっ!」  恵聖館の裏手、森が開けた場所に絵に描いたような不良の先輩三人の嘲笑が響く。
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