5人が本棚に入れています
本棚に追加
なんとも異様な佇まいだった。
なによりケージが驚いたのは身なりではなく、〝いつの間にかそこにいた〟ことだった。
いっさい気配を感じさせず、背後をとられていたことに、心霊現象を目撃したかのような衝撃を受けていた。
「先輩この人……っていない」
ケージが振り返ると誰もいなかった。
逃げたのだ。やはり素晴らしい先輩である。
「けけけけケージくん」
「落ち着け。……あー、私はケージ・ルートヴィヒ・ラインハルトと申しますが、どちら様でしょうか?」
誰何(すいか)すれば、老人は片眉を上げた。
「突撃家系と聴いていたが、なるほど礼儀はあるようじゃな。なにワシはシュヴァルツの知り合いじゃ」
シュヴァルツとは、恵聖館でケージたちを教える先生だった。
「……いつからそこに?」
「少し前じゃよ。我らが公国の歴歳から見れば数瞬前じゃ」
ケージは対応に窮した。初対面にしては理解しがたい言動だった。
怪訝顔をしていると、老人が笑う。
「道場に行こうか。外は冷えるからのお」
悠然たる物腰で老人は、ケージと同輩の横を歩きぬき、立ち止まった。
「あ……」
そこでケージは気づいた。
最初のコメントを投稿しよう!