七月:定年の知らせ

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「何なんだよ全く。」 俺は疲れてベッドに寝ころんだ。 確かに俺は作曲もしたことがある。でもそれは、すべてエリに近づくためにしたことだ。 プロ2年目の秋頃、演奏会で吹いた曲の中に、エリが作曲したコラールがあった。まさかこんな所でエリの名前を見ることになるとは思わなかった。 エリは俺の一歩先へ行ったのかと思うと、正直かなり悔しかった。だから俺も曲を書いた。そして渡部さんの力を借りて、初演と楽譜の出版をした。その曲はコンクールの自由曲として演奏される等、割と好評だったらしく、今もたまに作曲依頼が来たりしている。 それだけじゃない。翌年、エリはアメリカのソロコンで一位になり、ウィーンフィルのアメリカコンサートに、大学生ながらソリストとして出演していた。だから俺も全日本管打楽器コンクールに出場し、チューバ部門で満場一致の一位をもぎ取った。 少しでも俺の名前がエリに届けば…。全てそれだけの為にやった事だった。 そんな事を考えていると、自然と睡魔が俺を包み込んでいった。
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